大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8966号 判決 1991年3月29日
フランス国パリ 七五00八、アベニュー・モンテーニュ五四
原告
ルイ・ヴィトン
右代表者
ダニエル・ピエット
右訴訟代理人弁護士
藤田泰弘
右同
高松薫
右同
小野昌延
右同
忠海弘一
右同
芹田幸子
右同
松村信夫
大阪市住之江区南加賀屋四丁目一番四0号 メゾンロイヤル五一六号
被告
佐々木讓治
主文
一 被告は、原告に対し、金四三0万円及びこれに対する平成二年一二月四日から支払い済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、第一、第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求及び被告の対応
一 原告は、商標権侵害、不正競争防止法違反を選択的に主張して、損害金四四0万円(商標法三八条一項又はその類推適用による被告の得た利益相当額三00万円、信用毀損による無形損害一00万円及び弁護士費用四0万円の合計)及び右損害金に対する平成二年一二月四日(本件訴状送達の翌日)から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求をした。
二 被告は、適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面も提出しなかった。
第二 被告が自白したものとみなきれる事実
一 原告の商標権
原告は、別紙目録(一)、(二)記載の各標章(以下「本件各標章」という。)につき、それぞれ左記1、2の商標権(以下「本件各商標権」という。)を有する。
1 登録番号 第一四一九八八三号
出願日 昭和五一年二月四日
登録日 昭和五五年六月二七日
更新 平成二年八月二九日に更新登録完了
商品の区分 第二一類
指定商品 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具
2 登録番号 第一四四六七七三号
出願日 昭和五一年一一月九日
登録日 昭和五五年一二月二五日
更新 更新登録出願中
商品の区分 第二一類
指定商品 かばん類、その他本類に属する商品
二 原告の商品表示
原告は、かばん類、袋物等の製造、販売を業とするフランス国法人であるが、本件各標章は、原告が製造、販売する商品の表示として、国際的に著名であり、遅くとも昭和五二年当初には日本において広く認識されるものとなっていた。
三 被告の商標権侵害行為及び不正競争行為
被告は、万力武邦と共謀して、昭和六二年一0月から昭和六三年三月までの間に、本件各標章と同一の標章を使用して原告商品に酷似したかばん類(以下「本件偽ルイ・ヴィトンかばん類」という。)を少なくとも約一五00個以上畔上他数名に販売し、故意に、原告の本件各商標権を侵害するとともに、原告の商品との混同を生じさせ、原告の営業上の利益を害した。
四 原告の損害算定の基礎となる事実
1 被告の得た利益
被告は、万力武邦と共同して右行為により六00万円を下らない利益を上げたが、同人より昭和六二年一0月から昭和六三年三月までの六ヵ月間毎月五0万円、合計三00万円の利益分配を得た。
2 信用段損
原告は、一八五四年に、世界で最初の旅行鞄店としてパリに設立されて以来、極めて堅牢なファッション性に富む高級なかばん類、袋物類を販売し、広く知られている。原告は、ライセンス契約による製造はしておらず、フランスにおいて製造した製品を原告の日本における子会社が輸入し、これを子会社の直営店や特約店において販売して品質の管理に努め、本件各標章の信用維持に努めてきた。本件各標章は、原告の永年にわたる企業努力により世界的に著名な標章となり、日本国内において、取引者、需要者間で広く認識され、強力な顧客吸引力を取得した標章である。
しかしながら、原告製品は需要者に人気がある上、デザイン変更がなく値崩れがないため偽物が横行し、従来より原告は多大の費用を投じて偽物防止の対策を講じ、偽物の製造、販売に対しては民事刑事の手続をとってきた。
原告は、品位を大切にして商品イメージのための広告はしても、通常の販売促進広告はせず、又安売り、バーゲンセールをしないので、原告製品は需要者間に大変人気がある。このような原告にとり、酷似的模倣の商品を安売りきれると、原告製品ひいては原告の営業上の信用が毀損され、これにより原告が無形の損害を被ることは明らかである。
本件偽ルイ・ヴィトンかばん類は、いわゆる酷似的模倣の商品であって、素材(ビニール皮)、色、デザイン等細部に至るまで原告の商品にそっくり似せて作られている。被告はこれを大々的に販売したものである。
3 訴訟委任
原告は、本件紛争解決のために代理人弁護士らに対して、訴訟委任を行い、その報酬として四0万円の支払いを約した。
第三 当裁判所の判断
一 原告の損害
1 被告の得た利益相当の損害(三00万円)
商標法三八条一項によれば、前示第二の四1の利益分配金合計三00万円が被告の商標権侵害行為により原告の被った財産的損害の額と推定される。
2 信用毀損による無形損害(一00万円)
前示第二の四2の事実に照らすと、原告は、被告の商標権侵害行為によって、右1の財産的損害の賠償だけでは償えない無形損害を被ったものと認められ、これを金銭に評価すると一00万円と認めるのが相当である。
3 弁護士費用(三0万円)
本件事案の内容と手続の進行経過、請求額と認容額その他本件にあらわれた諸般の事情に照らすと、前示第二の四3の弁護士費用四0万円のうち三0万円をもって、被告の商標権侵害行為と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
4 合計(四三0万円)
右によれば、原告が被告の商標権侵害行為により被った損害は、右1ないし3で認定した損害の合計額四三0万円となる。
二 結論
以上によれば、原告の商標権に基づく損害賠償請求は、前記損害金四三0万円及びこれに対する不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日である平成二年一二月四日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
よって、原告の右請求を右の限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、不正競争防止法一条の二第一項に基づく請求も、損害金についての判断は右と同じになるから、右の限度を超えて金員の支払いを求める部分は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 裁判官 森崎英二)
別紙目録(一)
<省略>
別紙目録(二)
<省略>